ツバメの読書ブログ

読書記録や旅行記を中心に。

不都合な硝子屋(作者:ボードレール)

「純粋に内省的な性質で、全く行動に適しない人物がいるものだ。
ところがくだんの人物が、時として、一種の神秘不可思議な衝動に駆られて、平素は思いも及ばなかった脱兎のごとき迅速さで、行動に移ることがある」


主人公は上記の様な通常は静かな性質の人間で、臆病な程である。
私自身内省的な方だから、「ああ、分かる!周りにも居る!」と思えるような人物だ。

だが、この静かで内気な主人公が、ある朝、窓の外を通る硝子屋を見たことをきっかけに、彼の中で何かがクラック(壊れ)した。というよりスイッチが入った。
ボードレールは、
「不安の裡に快楽を見出すためであり、また、何の目的もなく、ただ気紛れに、暇潰しに、それをするのである」
それは「火薬樽の側で、葉巻に火をつける」行動に似ていると言っている。
つまり、アウトプットが苦手な人間ほどストレスが溜まり、突然突飛な行動を起こしやすい、ということではないだろうか。


本書では、硝子屋には何の落ち度もないのだが、『おい、おい』と声を掛け、
パリの狭いアパルトメントの階段を主人公の自室がある七階まで登らせた挙句、
『欲しいものが何もない!』と言って追い返し、渋々帰る硝子屋がアパルトメントの入り口から出てきたところへ植木鉢を落とした。
当然真上からもろに植木鉢を喰らった硝子細工は...というとても悲惨なものになっている。


既に犯罪レベルであるが、この行為でたとえ罰をくらったとしても、
「一瞬の間に無限の快楽を味わい取った者にとって、永遠の罰など何であろう」
とボードレールは言い切っている。


私が一つだけ感想を持つとすれば、
ストレスを溜めないような、鬱憤のはけ口となり得るような趣味や息抜きを、是非持ちたいものだ、ということだろうか...