ツバメの読書ブログ

読書記録や旅行記を中心に。

読書の現場 ~カフェ巡り~

〇〇の現場、と付けると恰好良いかな、という勝手なイメージでつけてしまった題名。
本当に現場に出ている方々に怒られそうだ。


さて、忙しい仕事の合間を割いて最愛の読書にいそしむ。
出来ることなら、上司にジロジロ見られながら、とか、メールとにらめっこしながらの読書は避けたいところだ。第一、本を書いた作者に申し訳ない。
そこで、ちょっとでも暇があれば近所のカフェなどに避難して、短い時間でも集中して読書をすることにしている。
気が付けば1時間があっという間に過ぎていて、「時間が...!まずい!」思って立ち上がろうとすると、あまりに集中していたために、珈琲は一口も口をつけておらず、かなしいくらいに冷え切っている有様。それを勿体ないからと一気飲みして、いつもそのあとトイレに行きたくなるのが、悪しき習慣になっている。


みなさんはどんな読書タイムを過ごされているだろう?
美味しいカフェをUPされているページを是非発見したいと思う。



☆作業の合間も、カフェへ。ここは横浜ワールドポーターズの「ホノルルコーヒー」にて。ハワイ島コナ地区の珈琲が、酸味があって美味しい。


いちじくの葉(作:中原中也)

突然ですが、果物のイチジクが大好きです。
どれほど好きかというと、祖母が大好きな私(そして家族の他のメンバー)のために、庭で育てて収穫する程です。
毎年収穫して、生を堪能し、ジャムに加工し、最後の一滴まで名残惜しくすくって食べます。
みなさんの好きな食べ物は何でしょう?
色々な人に聞いてみると、みんなそれぞれ違っていて面白い。
海で育った人の好みと、山で育った人の好みが違ったり。
そういえば、イチジクを好きな理由はなんだろう。
"好き"の理由を余り考えていなかった。
まず、見た目は余り好みではない。紫で、若干気持ち悪い。
特に、中身が。。。
ある意味グロテスクな見た目をしている。
でも、やっぱりあのさっぱりとした生のイチジクの味(加工されたものも大好きだが!)と種の粒粒感がたまらない!もはや中毒笑 
あ~今から秋が恋しい!!!


そんな私が愛してやまないイチジクをテーマにした中原中也の詩がある。
「ゆあーん ゆよーん ゆやよん」とか「汚れっちまった悲しみに」が有名な彼である。
フランス文学部卒の私にとって、中原中也のあのフランスにとっても憧れている感じ、なんかとても共感できてしまう!こういう感じの先輩とか、いたいた!!

いちじくの葉
作:中原中也


いちじくの、葉が夕空にくろぐろと、
風に吹かれて
隙間(すきま)より、空あらわれる
美しい、前歯一本欠け落ちた
おみなのように、姿勢よく
ゆうべの空に、立ちつくす
――わたくしは、がっかりとして
わたしの過去の ごちゃごちゃと
積みかさなった思い出の
ほごすすべなく、いらだって、
やがては、頭の重みの現在感に
身を托(たく)し、心も托し、
なにもかも、いわぬこととし、
このゆうべ、ふきすぐる風に頸(くび)さらし、
夕空に、くろぐろはためく
いちじくの、木末(こずえ) みあげて、
なにものか、知らぬものへの
愛情のかぎりをつくす。


ちなみに、いちじくの葉はこんな形↓

火縄銃(作:江戸川乱歩)

江戸川乱歩の処女作。
学生時代に試作した作品だ、と乱歩自身が説明している。
内容はシンプルな物理トリックの殺人事件の謎解きで、あっさりと読める印象。
まだ、乱歩独特の影の有るおどろおどろしさは感じられなかった。


この物語の中で、私が最も気になる部分をピックアップしてみた。
主人公2人(学生素人探偵の橘と語り手の私)が汽車で移動をしている、物語序盤部分。


「この日橘は、これが彼の好みらしかったが、制服の上にインバネスという変なかっこうで、車室のすみに深々と身を沈め、絶えずポーのレーヴンか何かを口ずさんでいた。そうやってインバネスの片そでから突き出したひじを窓枠に乗せ、移り行く窓の外の景色をうっとりながめながら、ものすごい怪鳥の詩をくちずさんでいる彼の様子が、わたしには何かしらひどく神秘的に見えたのだ。」


ここで何より気になったのが、ポーの『レーヴン』(恐らく英語で烏をしめす"Raven")とは何ぞや!?ということだ。
しかも、ポーはアメリカ人、、、ということは英語でぶつぶつつぶやく学生、神秘的というより、かなりやばい感じだ。
(乱歩の処女作で、彼のペンネーム『えどがわらんぽ』のもとになっている『エドガー・アラン・ポー』の詩が出てくることも面白い)

ちなみに、ポーの『Raven』をYoutubeで調べてみたところ、何と発見してしまった!
参考までリンクを貼りつけます↓ これを呟いてたのか...
リンクの下に翻訳版を(壺齋散人訳)

THE RAVEN. EDGAR ALLAN POE. READING BY VINCENT PRICE
  あるわびしい夜更け時 わたしはひそかに瞑想していた
  忘却の彼方へと去っていった くさぐさのことどもを
  かくてうつらうつらと眠りかけるや 突然音が聞こえてきた
  なにかを叩いているような音 我が部屋のドアを叩く音
  いったい何者なのだろう 我が部屋のドアを叩くのは
  それだけで 後はなにも起こらなかった


  はっきりとわたしは思い出す 12月の肌寒い夜のことを
  消えかかった残り火が 床にあやしい影を描いた
  夜が明けるのを願いつつ 書物のページをくくっては
  わたしは悲しみを忘れようと努めた レノアを失った悲しみを
  類まれな美しさの少女 天使がレノアと名づけた少女
  彼女は永遠に失われたのだ


  紫色のカーテンの かすかな絹のさやめきが
  それがわたしを脅かし 感じたことのない恐れで包んだ
  震える心を静めるため わたしは立ったままつぶやき続けた
  誰かが部屋の扉をたたき 中へ入ろうとしている
  深夜に部屋の扉をたたき 中へ入ろうとしている
  そうだ それ以上ではない


  やがて気持を持ち直し ためらうことなくわたしはいった
  紳士にせよ淑女にせよ 是非あなたのお許しを請いたいと
  だが実は夢見心地で あなたの近づくのを感じていた
  あなたは軽い足音をたて わたしの部屋の扉を叩く
  あまりにかすかで聞き取れぬ音に わたしは扉を開け放った
  扉の外は闇で 他にはなにも見えなかった 


  深い闇の中を覗き込みながら わたしはいぶかり立ち尽くした
  誰もあえて見ることを 望まない夢のような気がして
  沈黙は破られず 闇には何の兆候も見えない
  ただひとつ言葉が発せられた レノアとささやく言葉が
  わたしが発したその言葉は 闇の中をこだまする
  これだけで 後は何も起こらなかった


  心を熱くたぎらせながら 部屋の中に戻っていくと
  再びこつこつという音が聞こえた 今までよりも大きな音が
  たしかにこれは だれかが窓格子を叩く音だ
  いったい何事が起きているのか その様子を確かめてみよう
  心をしばし落ち着かせて その様子を確かめてみよう
  だがそれは風の音 それ以上ではなかった


  わたしが格子を押し開けるや バタバタと羽をひらめかせて
  大きな烏が飛び込んできた 往昔の聖なる大鴉
  傲岸不遜に身を構え ひとときもおとなしくせず
  紳士淑女然として 扉の上にとまったのだ
  わたしの部屋の扉の上の パラスの胸像の上に
  とまって座って それだけだった


  この漆黒の鳥を見て わたしの悲しみは和らいだ
  気品に溢れた表情が おごそかでいかめしくもあったゆえに
  お前の頭は禿げてはいるが 見苦しくはないとわたしはいった
  夜の浜辺からさまよい出た いかめしい古の大鴉
  冥界の浜辺に書かれているという お前の名はなんと言うのか
  大鴉は応えた ネバーモア


  この無様な鳥が明確にものをいうのに わたしは大変驚いた
  たとえその言葉には意味がなく 何を言っているかわからぬとしても
  だがこんな鳥が自分の部屋の 扉の上にいるのは素敵だ
  扉の上の胸像の上に 不思議な名前の鳥がいるのは
  ネバーモアという名の鳥が


  大鴉がいったのはただそのひとこと 塑像の上に孤立しながら
  その言葉にまるで 己の魂をこめたように
  それ以上大鴉はものいわず 羽を動かすこともなかった
  そこでわたしはつぶやいたのだ 以前にも同じようなことがあった
  それは夜明けとともに去ってしまった 希望が去っていったように
  すると大鴉はいったのだ ネバーモア


  かくも時を得た答えに 沈黙が破られたのに驚き
  わたしはいった 疑いもなく これがこの鳥のただひとつの言葉
  それは不運な飼い主から教わった言葉 そうだその男は
  過酷な運命によって これでもかこれでもかと打ちのめされ 
  もはや口に上る言葉といえば ただひとこと
  ネバー ネバーモアのみ


  それでも大鴉がこの哀れな心を 慰めてくれようとするのを見て
  わたしは大鴉の目の前に 安楽椅子を引いていっては
  深々とクッションにうずまりながら あれこれと想像を回らした
  この大昔の不吉な鳥は 陰鬱で 無様で いやらしい 
  この不吉な鳥はわめきながら いったい何を言いたいのかと
  ネバーモアということばで


  あれこれと思い測りつつ 一言も発することのないうちに
  大鴉の目の炎が わたしの心の中にまで燃え広がる
  それでもわたしは考え続ける 頭を椅子の背に凭せかけながら
  その椅子の背にはランプの光が ビロードの生地を照らし
  そのランプの光に照らされた 椅子の背には彼女が
  もう身をゆだねることはないのだ


  すると空気が密度を濃くし どこからともなく匂いがただよい
  香炉を振り回す天使たちの 足音が床に響く
  やれやれこの天使たちは 神がわたしに差し向けたのか
  この匂いはレノアへの思いを 和らげるための妙薬の匂いか
  この妙薬を飲み干せば 辛い思いが忘れられるのか
  大鴉が答えた ネバーモア


  邪悪な預言者よ 鳥であれ悪魔であれ
  誘惑者であれ 難破した漂流者であれ
  孤高で不屈なものよ どうか言ってくれ
  この呪われた砂漠のような地に 幽霊たちの住処のような家に 
  果たしてギレアドの香木が 存在するかどうか言ってくれ
  大鴉は答えた ネバーモア


  邪悪な預言者よ 鳥であれ悪魔であれ
  あの聖なる天蓋にかけて 父なる神の名にかけて
  この悲しみに打ち沈んだ魂にいってくれ はるかなエデンの園のうちで
  天使がレノアと呼んだ娘を 果たして見ることがあろうかと
  かの類いまれな美しき少女 天使がレノアと呼んだ娘を
  大鴉は答えた ネバーモア


  もうたくさんだ わが仇敵よ わたしは飛び上がって叫んだ
  去れ 嵐の中へ または暗黒の冥界の海辺へ
  形を残さずに消えろ お前の言葉の余韻も残さず
  わたしを孤独の中に放っておけ その場から消えていなくなれ
  わたしのこころを静かなままにして その場から消えていなくなれ
  大鴉は答えた ネバーモア


  すると大鴉は飛び回ることなく じっと動かずにうずくまったまま
  扉の上の塑像の上に 乗ったままの姿勢を保ち
  目はうっとりと閉じられて 夢を見る悪魔のよう
  ランプの光に照らされて 身は床の上に影を落とし
  わたしはその影の中から 抜け出そうとするが
  もはや抜け出すこともままならないのだ


この詩を呟く友人を神秘的と思える友人。私なら少し不気味で心配になりそうだ笑